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労働実務Q&Aこれで解決!

営業秘密と人事労務管理対策

Q.

 IT技術の向上により多くの情報が電子化され、大容量のデータであっても持ち出しや共有化が可能となり、不正漏えいした営業秘密が転々と流通する危険性が著しく上昇。営業機密がいったん漏えいしてしまうと、インターネットを通じて瞬時に拡散してしまうリスクも高まっています。新日鐵住金の高性能鋼板に関する営業秘密がポスコに不正取得・利用される等の大型事案も顕在化。これらに対応する法整備の状況や人事労務管理対策をご教示下さい。

A.

 不正競争防止法は、在職中の労働者および退職者による営業秘密の不正な使用・開示について差止請求等民事上の救済措置や刑事罰を設けています。このたび、営業秘密の保護に関して刑事・民事の両面にわたって制度面での抑止力を確保することを目的として、改正不正競争防止法が平成28年1月1日より施行されました。企業においても、他社の秘密情報にかかる紛争に巻き込まれてしまった場合に備えて、平時より対策を講じておくことが従前に増して重要です。


◆改正不正競争防止法の概要

①刑事上・民事上の保護範囲の拡大
 他人の営業秘密の不正使用により生産した製品の譲渡・輸出入禁止を営業秘密侵害行為に追加。その結果、民事上の差止請求や損害賠償の対象となり、刑事罰の対象になります。
 このカテゴリーでは、営業秘密侵害行為をした者から、直接譲受けた者(2次取得者)に限らず、第三者から譲受けた者(第3次取得者以降の者)も対象です。
 インターネットを通じた拡散の危険性に鑑み、営業秘密の不正取得や不正開示等の未遂行為も処罰の対象に。
②罰則の強化等による抑止力の向上
 営業秘密は漏えいにより価値を喪失する危険性が高く、被害回復も困難なことから、抑止力を向上させるため、個人および法人に対する罰金刑の上限が引き上げられました。
 営業秘密侵害罪を非親告罪化。被害企業の告訴なしに捜査、公訴提起ができます。
③民事救済の実効性の向上
 不正取得した技術上の秘密を使用して製品を製造している場合は、被告側(相手方)に証拠が偏在していることが多く、原告側(被害企業)が立証することは容易ではありません。そこで、一定の推定規定が設けられ、立証責任を転換。損害賠償請求が容易になりました。差止請求の期間制限(除斥期間)も延長。


◆人を媒介にした情報流出への対策

 不正競争防止法が定める「営業秘密」は、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②有用な営業上または技術上の情報であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)、の3つの要件を満たすものに限定されています。
 したがって、営業秘密が一般情報と合理的に区分され、当該文書に「マル秘」を表示する等の措置を講じておくことが必要です。
 重大なリスク要因となるのが退職者。中途退職者だけでなく、契約期間が満了した契約社員・派遣労働者、退職予定者、定年退職者等を含みます。
 就業規則等の社内規程に加え、秘密情報を取り扱う従業員と秘密保持に関する契約書を締結したり、従業員から契約書を提出させることが有効。その際、可能な限り対象範囲を特定すること。在職中や退職時に、その特定は容易です。 トラブルが発生したとき、故意の立証ができ、紛争を回避することができます。
 退職予定者には、適切なタイミングで、アクセス権の制限の設定も考えられます。
 自社の営業秘密の流出を防止するのみではなく、他社の営業秘密の流入を防ぐことも、これまで以上に重要です。新法により差止請求や刑事責任を問われるリスクが高まってきたからです。転職者の採用時には、転職元からの秘密情報の持ち込みを行わない旨の契約書を提出させる必要があります。会社として、できることはやつておくことが、何よりの対策です。

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