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労働実務Q&Aこれで解決!

労災かくし

Q.

 建設業界の話です。たとえば下請業者。下請業者が労災事故を起こした場合、元請業者からの今後の受注に悪影響が出かねないことを心配して労災事故をかくしてしまうことがあるそうです。一方で元請業者。国や地方公共団体が発注する公共工事の競争入札において、今後の受注の障害になることを懸念して、労災事故をかくすことがあると聞きました。どちらもいけないことです。どういう理由(ワケ)でこんなことが起きるのでしょうか。

A.

 どちらも労災かくしで違法です。下請業者が元請業者を忖度するのは、労災保険料を元請業者が負担する「有期事業の一括」制度のため。また、一定規模以上の事業者には「メリット制」が適用され、労災事故の有無により保険料が上下する仕組みが適用されます。元請業者からの評価が下がり、受注がなくなる恐れがあるのです。元請業者は、公共工事の入札に先だち「経営事項審査」が実施されます。労災事故は減点項目。受注減につながります。どちらにも、立派な動機があるのです。


◆労災かくしは犯罪行為

 「労災かくし」とは、労働安全衛生法100条(労働安全衛生規則97条)にもとづく事業者の義務としての「労働者死傷病報告」の所轄労基署への提出義務違反をいいます。この報告書の提出をしない、または虚偽の報告をすると、50万円以下の罰金に処せられます(安衛法100条、120条5号)。労災かくしは犯罪です。厚労省は、罰則を適用して厳しく処罰を求めるなど、厳正に対処することとしています。
 労災かくしには2つのパターンがあります。その1は、事業者が労働者死傷病報告を提出しないケース。その2は、事業者が虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を提出するケース。
 いずれも、単なる書類の提出漏れだけではなく、労災事故を隠そうといった事業者の明白な意図が読みとれるのです。


◆労災かくしの動機と手ロ

 なぜ会社は労災事故をかくすのでしょうか。あらゆる業種に共通する理由は次のようなものです。
 第1は、監督署に報告したり、書類を作成(「5号様式」など)する手続自体が面倒であること。後日、監督署の臨検を受けたり、行政上の処分を受けることも含めます。
 第2は、労災保険の保険料が上がってしまうこと(小規模企業にメリット制の適用はなく、誤解されている部分もありますが)。
 第3は、無災害記録が途絶えてしまい、現場の上司の昇進や企業イメージに悪影響を及ぼしかねないこと。
 以上に加え、建設業特有の理由があります。下請業者では、元請業者の評価が下がること。元請業者にあっては、経営事項審査の評点が下がること。いずれも受注減に直結しているのです。
 労災かくしの手法。1つめは、治療費や体業補償を企業が丸抱えするやり方。もう1つは、労災保険の代わりに健康保険を使わせるやり方。後者の場合、当初から法違反です。


◆労災かくしの発覚とペナルティー

 労災かくしの最大の被害者は、被災労働者。健康保険では3割の自己負担があり、休業補償もなく、後遺症等の大きな不安を抱き続けねばならないからです。
 しかし、いったん虚偽が発覚すると、会社は大きなダメージを受けます。丸抱への労災費用が払えなくなったり、被災労働者が再発して監督署に相談に行く、あるいは内部告発やインターネットヘの匿名の書込みなど、発覚の端緒には事欠きません。
 労基署からは、是正勧告。行政からは、作業停止等の行政処分。建設業者は指名停止。事案が重篤災害であれば刑事訴追も。民事上も、損害賠償請求をされます。これに新聞やマスコミ報道が追い打ちをかけ、経営難に陥ることにも……。様々なペナルティーが待ち受けているのです。

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