HOME >これで解決!労働実務Q&A>紛争解決制度・労使関係>職務専念義務 サイトマップ
労働実務Q&Aこれで解決!

職務専念義務

Q.

 公務員については、法律は、「その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い」なければならない旨規定し(国家公務員法101条、地方公務員法35条)、厳しい職務専念義務を定めています。民間にそのような法律はありません。しかし実際の就業規則においては、「従業員は、業務上の指揮命令に従い、自己の業務に専念しなければならない」などの規定がおかれています。この職務専念義務とはどのようなものですか。

A.

 職務専念義務とは、一般的な労働関係においては、労働者が債務の本旨に従った労務提供をする義務をいいます。契約上の債務の履行は、「債務の本旨に従って」行わなければなりません(民法493条)。労働契約でいえば、会社からの指揮命令に従って労務を提供するということです。したがって、労務の不提供の場合はもちろん、労務を提供したとしても、それが会社の指示に反するものであれば、法的には労務を提供したと評価されないのです。


◆職務専念義務と組合活動

 勤務時間中の組合活動として、反戦プレートの着用や、組合のリボン闘争、組合バッチ着用などが職務専念義務に反しないかが問われてきました。この組合活動は、組合員同士の連帯のためや使用者への要求運動としてかつてよく行われてきたのです。これに対し使用者は、職務専念義務に反するとして就労を拒否したり、就業規則違反として懲戒処分を行います。その処分の有効性を争って労働者が裁判所に提訴するというパターンが多いのです。
 最高裁は、旧電電公社職員の事件で、職務専念義務の内容について、「職員がその勤務時間及び職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではない」としています(目黒電報電話局事件 最判昭52・12・13)。胸に反戦プレートを着用して勤務することは職務専念義務に違反すると判断したのです。
 民間ホテルの従業員が、上着の左胸部位に「要求貫徹」などと書かれたリボンを着用して勤務するという「リボン闘争」を行ったため、このような闘争を指示した組合幹部に対して減給ないし譴責処分が行われた事件でも、最高裁は、組合活動の正当性を否定しています(大成観光事件 最判昭57・4・13)。
 最高裁や下級審の裁判例の全般的な傾向は、高度で厳格な職務専念義務を課すものとなっています。


◆出張・外勤拒否と賃金請求権

 争議行為としての怠業の一種に、特定業務を拒否するという戦術があります。使用者が、出張または外勤を命じ、それとは別の通常の労務提供の受領を拒否したにもかかわらず労働者(組合員)が通常の業務を遂行した場合、当該労務提供に対応する労働者の賃金請求権が発生するか否か。ここでも、「債務の本旨に従った」労務提供といえるかどうかが論点になるのです。
 最高裁は、「本件業務命令によって指定された時間、その指定された出張・外勤業務に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従った労務の提供をしたものとはいえず」(水道機工事件 最判昭60・3・7)、当該不就労時間に対応する賃金は発生しないとしています。
 民法上、労働者の就労の申込みが労働契約の本旨に従った労務の提供といえない場合には、使用者は当該労務の受領を拒否し、賃金支払い義務を免れる(民法493条、536条)のが原則。本件では、使用者が労働契約に基づいて労働者に対して出張・外勤命令を命じた場合、それが労働者の労働契約上の義務内容になり、それに従わなかったときには労務の内容自体が不完全で瑕疵があるので、そのかぎりで使用者は賃金支払義務を免れると解釈したのです。

ページトップ